泡坂妻夫「奇術探偵曽我佳城全集」結び方のコミュニケーション

わたしが学生だった頃、「幻影城」という雑誌がありました。
江戸川乱歩にも、推理小説の評論集として同名のものがありますが、これはおそらくそれからとったタイトルだったと思います。
島崎博というもともと台湾の方が、書誌家としての膨大なコレクションを背景に、昭和初期の「探偵小説」を採録していた、エラリークィーン・ミステリマガジンのような雑誌でした。
この「幻影城」が、創刊2年目ころに新人賞をはじめ、その受賞者のひとりが泡坂妻夫さんでした。
残念ながら、故人ですが、「亜愛一郎の冒険」「乱れからくり」などの作品が残されています。

「奇術探偵曽我佳城全集」は、泡坂さんが20年以上にわたって書き続けられた、手品師・曽我佳城のミステリーです。

今回、読んで感心したのは、「バースディロープ」のお話。

とはいえ、推理小説的な部分についてあまり詳しく書いては、これから読もうという方の気持ちをそいでしまいますから、別の部分について述べておきます。

もともと泡坂さんは、ご自身もアマチュア奇術師であり、作品にも奇術があふれています。
この作品で、注目するべきは、コミュニケーションの手段としての「ひもの縛り方」です。
物語の冒頭で、結び目の研究が語られます。

ある地域では、紐の縛り方で、自分のメッセージを雄弁に伝えることができるそうです。
わたしたちは、香典の袋でさえ、いまでは「すでに縛られた」状態で購入しています。
でも、あの縛り方には、亡くなられた方を悼む気持ちが表されているのだそうです。

そこで、ある村での「言い伝え」が語られます。
若い男女がいて、であい、互いに好意を持ちます。
そこで、男は恋文を送ります。
その恋文とは、文字のない手紙を結んだもの。
ところが、この恋路を邪魔する人物がいて、あるトリックで、恋人たちを引き裂いてしまうのです。
この「まくら」の部分で、たちまち作品世界に引きつけられました。
現在では、文庫本2巻本で手に入るそうです。

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