小鷹信光さんのこと③

小鷹信光さんのこと③

辞典の役割に関する説明の後、小鷹さんの本では、実戦的に、トム・ウルフのエッセイを、辞典を使って訳していく具体例を示してくれています。

この部分にも「辞書は役に立たないのか?」というセクションがあり、具体的に、どのように調べて、どういう訳文にしていくかの例があります。

たとえば、

① the New Yorker who wears an amused Upper Bohemian aloofness from Hollywood and …

aloofness from Hollywood の from は、ハリウッドとは超然と、一線を画した無頓着さ、冷淡さと訳さねばならない。

これを「~からの」とやったのでは落第。

② In movie circles today, any man who wears a suit, shirt, and tie is presumed to be ..

スーツとシャツとネクタイが一つの不定冠詞でくくられているのだから、「背広の下にパリッとしたシャツとネクタイ」つまり、ホワイトカラー族の「お仕着せ」とひっくるめて訳したほうがよさそうだ。

③ ,,to be on the premises as a representative of Wells Fargo or some other burglar alarm company.

and ではなく、or でつながっていることに注目。そのまま訳せば、「ウェルズ・ファーゴとか同じような盗難警報器会社」となる。

(中略)これが正解で、「ウェルズ・ファーゴ」は職業別電話帳の「盗難警報器会社」の項目にも堂々と保安会社として”Wells Fargo Alarm Services”の社名が記載されているのだ。

結局、用意した辞書の半分も使えず、おまけに下手をすると「辞書は役に立たない」という印象まで与えかねない一文になってしまった。

だが、私は辞書を引くのも、読むのも大好きだし、翻訳の第一歩はやはりマメに辞書を引くことだと信じている。

もしどこかで小鷹信光さんの「翻訳という仕事」を見かけられたら、ぜひ一度手にとってご覧になってください。

興味深いお話がいっぱい発見できるはずです。

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