仕事で、英語の例文探しをすることがあります。
ふしぎなことですが、日ごろ目を通している英文でも、特定の文法項目などにこだわって例文を探していると、全体の流れが全く頭に入ってきません。
ある英語の先生の書かれた本を読んでいたときに、似たようなエピソードに遭遇しました。
その先生は、やはり辞典など作るために英語の例文が必要で、何度も読んでいるアガサ・クリスティーの作品を読み直されたそうです。
すると、やはりストーリーは全く頭に残らず、なんとなく損をしたような気がした、と述べていらっしゃいました。
わたしたちはどうも、一つのことに心を向けると、別のことへの気持ちが弱まってしまうらしいのです。
たとえば『不連続殺人事件』を書いた坂口安吾は、探偵小説のトリックとして優れているのは、例えば本を読みながら階段を下りてきて、トイレに行きたくなり、ついその辺に本を置いたまま、用を済ます。
そのあと、本を置いたこと自体を忘れてしまう。
そうした心理を応用するのが優れたトリックだ、と書いています。
名古屋駅などでエレベーターに乗っていると、突然、直前に立っているひとが立ち止まってしまって、つんのめりそうになることがあります。
見てみると、メールを一心に読んでいるのですが、うっかりしたら、突き飛ばしてしまいそうで気になります。
自分が思っているよりも、わたしたちは多くの課題を同時にこなせるようにはできていないのかもしれません。
そんなことを考えていました。