ミステリ十二か月

表紙のかわいらしい猫の探偵たちの絵で、なんとなく子供向きの本なのかなあ、と思わせられてしまいます。
実は、読売新聞に連載された、ミステリ小説の紹介の記事なのですが、名アンソロジストにして、ミステリ作家の北村薫さんの作品ですから、選ばれた作品は、いずれも上品、かつ読みごたえのある作品ばかり。

スタートの1月は、子供向きの本から紹介を始めて、はじめてミステリに親しもうという方には、肩の凝らない本ばかり。
なつかしの江戸川乱歩「少年探偵団」シリーズや、南洋一郎訳のルパン・シリーズなど、わたしたちの年代の本好きな人たちにはこたえられないセレクション。

「少年探偵」シリーズの「宇宙怪人」がはじめての乱歩体験だったのですが、前半だけ読んだら就寝時間になってしまいました。
結局、話が怖くて怖くて、とても寝られず、かなり夜遅くまで、布団の中で悶々としていたことを覚えています。
頭の中に、挿絵にあった、くちばしをもった、うろこのような皮膚の宇宙怪人が現れて、襲いかかってくる画像が強烈でした。

翌日には、後半を読んで、そこまで怖い話ではないことを知り、ホッとするのです。

この連載では、例えば、ポーの「黄金虫」をどう読むのか、非常に興味のある考えが紹介されています。
編者の北村さんは「こがねむし」と読むそうですが、同世代の作家たちは「おうごんちゅう」と読む人が多い。
これはほぼ同じ時期に二つの出版社から少年少女文学全集が出されて、北村さんの持っていた方には「こがねむし」のルビが、もう一つには「おうごんちゅう」とふられていたためらしい。私も、長い間、「おうごんちゅう」だと思っていましたから、その指摘はとてもよくわかります。

こうした編者のエピソードも含めて、とてもなじみやすいミステリ紹介の本がこれです。かわいらしい版画の挿絵も含めてぜひ、愛読していただきたい一冊です。

「ミステリ十二カ月」(北村薫)中央公論新社

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