松本亨英作全集がなぜ素晴らしいか②

前回は英作全集の1巻から3問を引用してみました。

今回は、2巻から興味深い題材をピックアップすることにします。

「平和とは有り難いものです。どんなことがあっても平和は守らねばなりません」

生徒さんの訳文。

Peace is obliged thing.  We must protect it whatever happens.

(田口のコメント)

おそらく、私たちは、上の和文を見せられたら、多くの人が上記のように書くのではないでしょうか。

松本先生の添削指導。

「辞書には「ありがたい」は、たしかに obliged と出ているでしょうが、ここで使うことはできません。obliged は、I am obliged. という風に使い、「私はありがたく思っている」という意味になります。

Whatever happens としたのでは平和は守れません。これは、「どんな代償を払っても」という意味に解釈して、at any cost にしなければなりません」

そして模範解答例。

Peace is wonderful (precious).  we must protect (preserve) it at any cost.

(田口のコメント)

原文の意味の解釈が大変重要な作文です。ここで、たとえば、「ありがたい」でも、Thank you の意味のありがたいではなく、もっと平和というものが、とても貴重な、素晴らしいものだ、という意味ととらないといけませんし、平和を守るためには、ある意味で、実力行使も含まれる、と考えなくてはなりません。ただ手をこまねいているだけでは、平和は、ある日突然、消滅してしまうことも十分ありうるのですから。

「大きなことをしようと思うと、どうしても大きな犠牲者が出ます」

まずは、生徒さんの訳。

When we try to do big things, many big victims come out.

松本先生の添削指導。

「犠牲者」は、victims には違いありませんが、victim というのは、悲しい事故の犠牲者に限られています。「大きな犠牲者」というのは、「多くの犠牲者」という意味でしょう。ですから、この場合は、sacrifice (犠牲)を使ってはどうでしょう。

この設問を、「大きなことは大きな sacrifice を要求する」という風に見直すと訳が楽になります。このような考え方は、直訳を避け、Say what you mean. にはぴったりした方法なので、私は極力お勧めします。つまり、日本語の原文の意味の真意を、まず確認することです」

(田口のコメント)

このSay what you mean というのが、松本先生の英語での表現方法のポイントだと思います。作者は、この日本語を通じて、どういうメッセージを伝えたいのか、とじっくり考えて、それにふさわしい英文を、すでに自分の知っている英文の中から選び出す、または、自分のよくわかっている構造の文を、おきなおす、と理解すればよいと思います。

添削例。

Big things require big sacrifices.

松本先生の英作文の一つの特徴は、物語のような形のものが多くみられることです。最後にそういう形の例を挙げておきます。

「ある日、小学校へ行く途中、道端に捨てられている子犬を見つけました」

生徒さんの訳。

One day on my way to elementary school, I met apubby which was thrown away at the side of a street.

松本先生の添削説明。

「学校へ行く」は普通、go to school ですが、school に形容詞がつくと、形が崩れますので、the をつけてください。met と was thrown の時制を整え、met は saw にします。

添削例。

One day on my way to the elementary school, I saw, on the side of the street, a puppy that had been thrown away.

そしてその続きにあたる文。

「それを見て、私は拾い上げようと思いましたが、授業がありました」

生徒さんの訳。

Looking at it, I wanted to pick it up, but I had classes.

添削説明。

この文は前の続きとして考えてみます。すでに子犬は目に留まっていますから、looking at it 入らなくなります。I wanted to pick it up は結構ですが、but I had classes がうまくつながりません。拾い上げても、学校には持っていけない、という意味ですから、そういう風に表現しなくてはなりません。

添削例。

I wanted to pick it up, but taking it to class was unthinkable.

(田口のコメント)

ここまで見てくると、この子犬はどうなるんだろう、そして、この子はどうするのだろうか、と先が気になります。松本先生は、こうしたドラマチックな話を英作文にも、英会話にも持ち込むことがあり、読んでいると、こうした物語に引きずられて、英語力が伸びていく、という例が多くみられます。

 

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