早川書房「シャーロック・ホームズの冒険」(上・下)

もう一つ、シャーロック・ホームズの文庫がありました。

岩波文庫からもホームズは出ていますが、これは、短編集から数本を選んだ選集なので、まあ問題にならないのですが、ミステリといえば、ビッグ・ネームの早川書房がありました。

じつは、早川書房は、戦後から、ペーパー・バックの装丁で、「ハヤカワ・ミステリ・ポケット・ブックス」でおなじみのシリーズです。

その後、早川ミステリ文庫が創刊され、ポケミスでしか読めなかった作品が、大量に文庫本になりました。

最近、復刊された「シャーロック・ホームズの冒険」は、待望久しい大久保康雄訳の早川ポケミスの復刻版です。

大久保康雄さんといえば、一時期、翻訳文学の棚を独占した、という人もいるくらい、めぼしい作品は、主に河出書房から大量に訳されている方です。

大久保翻訳工房、とさえ、呼ばれることがあったそうで、下訳の人も使って、沢山訳本を出していらっしゃいます。

私の手元にあるのは、活字が大きく読みやすくて、上巻、下巻ともに6篇ずつ収められた文庫本で、価格も600円ちょっとで、まあ手に取りやすい本です。

大久保訳は、ポケミスのホームズものをすべてカバーしていたはずで、文庫にはなっていませんが、全作が訳されていたように記憶します。

また、ポケミスだけに収録されている、コナン・ドイルの息子である、エイドリアン・コナン・ドイルと、密室殺人もので、世に知られているディクスン・カーが共作した「シャーロック・ホームズの功績」という短編集も、出されています。

これは、他の出版社からは出ておらず、ファンにとっては、価値のあるものと言ってよいでしょう。

この[功績]は、エイドリアンと、カーが共作した6作と、エイドリアンの単独執筆の6作の、全12作が含まれています。

この作品集の面白いところは、オリジナルのホームズもの(ファンに言わせるところの「聖典」)に、少しだけ触れられている「語られなかった事件」を題材にしているところ。

だから、この「功績」を読めば、原典の欠けているところ(というか、コナン・ドイルが、名前だけ出して、作品に仕上げてないもの)が楽しめる、ということになります。

ただ、息子のエイドリアン氏は、やはり、他の作家によるパロディ(贋作)ないしパスティーシュ(模作)が気に入らなかったようで、ドイル没後に出版された、「ホームズの災厄」という作品集を、出版禁止にしています。

そういう点では、山中峯太郎の「ホームズ」と同じ運命をたどったわけで、いささか残念だと思います。

確かに、遺族の方たちからすると、不愉快なのかもしれません。

日本の、金田一耕助のパロディ作品も、遺族の方が、探偵名の使用許可については、あるていど、節度ある利用をするよう、希望されているようです。

もっとも、金田一耕助も、角川文庫や、そのほかの出版社から、すでにいろいろ出ているので、できれば、余り堅い事を言わずに、楽しませていただけるとありがたいな、と私などは無責任に考えています。

まあ、そんなところで、今日は終わらせていただきます。

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