「集めも集めたり一万冊。男なら、ここまで惚れろ!」
高校三年生の時、兄から渡されたミッキー・スピレーンの小説を読んだのが、ペイパーバック体験の始まり。当時、一部120円程度だった新刊に対して、古本屋で手に入るペイパーバックは、一冊20円程度。貧乏学生にとっては、大変ありがたい話だった。
その後、この、わら半紙のような紙を、はでなカラーイラストの表紙でくるんだ小説本の世界に夢中になってしまう、小鷹信光さんのいわば「ペイパーバック、コレクターの書」が、この「私のペイパーバック」です。
小鷹信光さんといえば、日本のハードボイルド小説の紹介・翻訳者の大御所であり、また故・松田優作さん扮する工藤探偵の活躍するテレビドラマ「探偵物語」の原案・原作者でもあります。
(最近、復刻された松田版「探偵物語」は、小鷹さんの原作とは、かなり、というか、ほとんど別の作品といってもいいほどテイストの違ったものですが)
小鷹さんには、日本推理作家協会賞を受賞した「私のハードボイルド」という作品もあり、このなかで、「ハードボイルドにあまり興味のなかった江戸川乱歩が、この分野について述べている内容の元ネタは?」とか「ハードボイルドということばを日本で最初に使ったのは、時代劇丹下左膳の作者、林不忘(長谷川海太郎)か?」といった点について、資料をそろえて回答しています。資料というのは、収集された雑誌、小説本、評論、辞典といったもので、こうした疑問に対して、かっちりと原資料にあたって記述することがいかに困難な作業かは、少しやってみれば、すぐにわかります。
英語を学んできて、強く思うことは、外国語を学んでいこうという原動力になるのは、そのことば独自の持つ文化的な力です。たとえば、ペイパーバックの持つ独特の雰囲気は、日本の文庫本では決して得られないものです。特に、小鷹さんがこだわっている戦後の時期のアメリカン・ペイパーバックの持っている、ある意味、毒々しいといってもいいパワーとエネルギーは、他ではなかなか見られないものです。
小鷹さんは、この本の口絵として、5折もの横長の写真を載せています。これはゴールドメダルブックの101-331の番号を持つすべての本の表紙を並べたもの。はたして出版元でもそろえられるか、というこの表紙を見せることのできるこだわりが、マニアの気持ちを示しています。
手に取ってみれば、コレクターの熱気が伝わってくる、まさに垂涎の一冊。