ミックスというのは、時として、予想のつかない大きな実を結ぶことがあるようです。
江戸川乱歩賞に応募、でも残念ながら受賞を逃した「占星術殺人事件」が異例ともいうべき扱いで出版され、これがデビューとなった島田荘司さん。
デビュー作品で登場したのが、ホームズをずっと極端にした形の天才型私立探偵、御手洗潔。
ところが、当時、江戸川乱歩賞は評価しても、ヴァン・ダインやエラリー・クィーン的な本格推理は子供っぽいとして敬遠していた日本の出版界は、御手洗潔ものはとんでもない!と頭から拒否。
というわけでうまれたのが、警視庁刑事吉敷竹史。トラベル・ミステリーの流れで、いわばリアルな探偵役。
ただ、「トリックにはキャラクターがあり、御手洗の解決すべき謎と、吉敷の解くべきミステリーでは質が違う」という島田さんの考えから、カッパノベルスでは、御手洗式のトリックは使えない。
それが、編集者とのせめぎ合いと、時間の壁のために御手洗トリックと吉敷ノベルとがドッキングしたのが、シリーズ第3作にあたる、この作品とか。
「夕鶴」の作品としてのすごさはそこにあるのだと思います。
もっとも、発表後すぐに、トリックと探偵キャラクターの齟齬を指摘した感想も届けられたそうで、「野に遺賢あり」を地でいくエピソードもあったようです。
綾辻行人氏も、「夕鶴」が発表されたときに違和感を感じられたそうで、わたしなどにはわからないバランスの悪さが「夕鶴」にはあるのかもしれません。
こうした裏話が読めるのが、島田全集の面白さなんです。