小鷹信光さんのこと②
その小鷹さんの著書、「翻訳という仕事」には、英語を学んでいる人にも参考になる記述が、いっぱいあります。
「辞書が欠乏していた時代にこの道の先輩たちが必死に頭を使ったその努力が忘れられている」
そして、
「辞書がなかった時代に比べると、いまは辞書〈情報〉に振り回されている時代と言える」
ここから、ある英語研究雑誌に小鷹さんか書かれた記事の引用になります。
その中から、興味深い文を抜粋してみます。
「どんなに優れた辞書であっても、辞書には永遠のロングセラーはあり得ない。
永遠というのは大げさだが、5年もたてば確実に古くなる。
辞書の下になる言葉が絶えず変化、流動しているからだ。
だから、優れた辞書ほど権威の上に胡坐をかかずに、実にこまめに改訂を行っている(これは日本の英和辞典のことではない)」
このあと、最所フミさんの「現代アメリカ語辞典」にでてくる、back burner という言葉の例が出ています。
「1973年ごろから出回りだしたもので、・・・後ろに押しやる」意味だと記されている。
(中略)翻訳中に私もこのback burner にぶつかってひどく当惑した覚えがある。
作品は、1968年刊のロスマクドナルドの「一瞬の敵」(早川書房)だった。
今思えば、意味はまさに「後ろに押しやる」がぴったりだった。
どんな辞書を引いても、このよう源の意味が、しかとはつかめず、きっと私は、”想像訳”でお茶を濁してしまったのではないかと思う」
小鷹さんほどの達人が、こうしたこともあったと書かれるわけですから、辞書がなかなか手に入らない時代、現在あるような、細かな記述もある大事典がなかった時代の苦労がしのばれます。