小栗虫太郎という作家の名前を聞いたことはありますか。
昭和8年に突如、日本の探偵小説界に現れた、異形の天才児と言ってよいかもしれません。
江戸川乱歩が、二銭銅貨というデビュー作をひっさげて登場し、日本の探偵小説界の、いわば巨木のような存在として屹立していた【新青年】という雑誌。
この雑誌に、横溝正史が、100枚の中編を依頼されていたのに、肺病のため、書けなくなってしまった、その代理として、編集長が預かっていた新人作家の作品を掲載します。
この新人作家が、小栗虫太郎。
そして、その100枚の原稿が彼のデビュー作、【完全犯罪】でありました。
その後、数作品を経て、「新青年」誌に連載されたのが、この「黒死舘殺人事件」でした。
現在、東京創元社の探偵小説全集、早川ミステリ、河出文庫、などから出版され、手に入れることは容易ですが、読むのは大変。
ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」の枠組みを利用していながら、どのように事件が起きたのか、を明確に頭の中に描き出すことは不可能です。
まず、表現が、旧来の日本語の書き方であること。
さらに、具体性をほとんど備えていない分であること。
作中人物たちは、まるで、自分の夢想を語るように、理解を拒否した物語を語っていく。
そして何よりのミステリーは、「なぜ、当時の読者は、夢中になったのか」だと言っても過言ではないほどの難解さ。
それでも、わたし自身、手に取って読み出したら、その勢い、その独自の雰囲気にうっとりさせられてしまったのですから、なぞであります。
最近、早川ミステリ版の黒死舘殺人事件を手に入れました。
一文一文は読みにくいのだけれども、独特の表現世界に引っ張り込まれてしまう、独特の魅力があります。
果たして、10年後、こうした小説がのこっているのだろうか、とも思うのです。
こうした、万人に合うとは限らないけれど、一部の人に、徹底的に好まれる小説も、あっていいものだから。
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