松本亨先生は、英語の演説の達人と言ってよいと思います。それは、もちろん長らくアメリカで過ごされたことも理由の一つと言ってもよいと思いますが、それよりも、先生は、キリスト教の神父としての仕事を行っていらっしゃったということが大きいのだろうと思います。というのは、神父、という仕事は、さまざまな場所で、いろんな人たちにお話をする職業でもあり、また、時として、相手を説得する仕事でもあるからです。ですから、松本先生の書かれた数ある著作の中には、英語のスピーチに関するものが多くあります。
一つは代表的な著作として、「英語演説」という、スピーチの指導書があります。もう一つは、英語のテキストなのですが、「英語のイントネーション」という会話テキストです。
後者についてお話しすると、これは、もともと、先生が在米中に、級友から「君の英語には何かが欠けている」といわれて、いらっとして、「何が足らないというんだ!」とすこしどなるような言い方をしたら、「それだ、それだ」といわれて、「君の英語に欠けているのは、イントネーションなんだ!」といわれた、というエピソードがあります。その時、その級友の方にも指摘されたし、ご自分でも、思い当たったのが、日本人の英語には、今一つ感情の発現が内容だ、ということでした。
そこで、先生は、日本人のために、人生の様々なシーンで、イントネーションを豊かに含む、英文をできるだけ用いるようにして、1年間にわたり、ご自分がのちになってNHKのラジオで教えるときに、ドラマ仕立てで、物語を作り、これをテキストにしました。
いまでは、なかなか本屋さんでも見かけることの亡くなってしまった「英語のイントネーション」ですが、機会があれば、ぜひ復刊していただきたいテキストの1つです。
このテキストそのものは、英語演説をするところは含まれていないのですが、人が生活をしていくうえで、他の人たちに対する恋愛感情を含んだ、物語として、作られており、実際に音読していくと、とても生き生きとしたイントネーションの含まれたものになっています。
松本先生は、最初から英会話講師としての道を選ばれたわけではないのですが、実際にラジオ講座を担当し、先生に寄せられる視聴者の感想などに触れていくうち、とても巧みにその希望を織り込んだテキストを、物語のように作られていきました。
「英語のイントネーション」のほかに、NHKから「ナンシーとジョージ」という高校生たちの物語があったり、他にも生き生きとした青春物語がたくさん作られました。
わたし自身、この「英語のイントネーション」や「ナンシーとジョージ」でいろいろと学ばせていただいて、感謝しています。
実際にこの物語をここで書いていくことはできないのですが、1日も早く、復刊されることを祈っています。
イントネーションを学ぶために、恋愛物語をテキストにする、という発想自体、なかなかないと思いますし、ラジオの講座で、著作権などの問題もある中で、オリジナルの作品を作られる、というのは、まさに松本先生ならではの工夫だと思います。
他にも、古本屋などをご覧になれば、意外な形で、まだ残っている教材が手に入るかもしれません。
英語演説の話を書くつもりでしたが、今日はちょっとお話の中心がずれてしまいました。
最後に、せっかくこのタイトルの記事を読んでいただいたのに、英語のスピーチの話は全然出てこない、とがっかりされている方もいらっしゃると思うので、先生の「入門英会話」という著作から、ごく一部、抜粋して、スピーチ作りのためのヒントを挙げておきます。
①自分のいちばん関心を持っている話を中心に置きましょう。
②できるだけ自分で身をもって体験した話にしましょう。
③それをできるだけテーマに沿った話として、まとめていきましょう。
では、また!