坂口安吾『不連続殺人事件』

愛読している推理小説のひとつが、坂口安吾の『不連続殺人事件』。
戦後、『堕落論』で、人間が、自由に生きることを訴えたことで有名な坂口安吾。
戦争中は、仲間を集めて、推理小説の謎とき部分を破り捨てて、犯人あてに興じたといいます。
この安吾が、機会を得て、懸賞付きの犯人あて本格推理を書きました。
それが、この『不連続殺人事件』であります。

この作品は、戦争直後に、田舎に引っ込んだ金持ちによばれて、奇人変人、一筋縄ではいかない連中が集まって、どんちゃん騒ぎを繰り広げていく中、ひとり、またひとりと、登場人物たちが死んでいく、というもの。

作品中に、読者が感情移入できる人物がおらず、おたがい憎まれ口をたたきつつ進行する物語には、最初、辟易するかもしれません。

安吾は、推理小説たるもの、他の人の作ったトリックを転用するのではなく、人間の心理に基づいて、当然起こりうることを利用しなくてはならない、といっています。
そして、この発言の一つの例として、谷崎潤一郎が作品の中で用いた例をあげています。
ある人物が、トイレに行くために、持っていた本を通りすがりの暗い所においてしまう。
用を足した後、そのことをすっかり忘れてしまい、そのまま自分のいたところに戻る。
あとになって、本のことを思い出すが、一体どこに置いたものやらさっぱり思い出せない。

安吾も、この作品の中で、心理的トリックのようなものをつかっていて、それが大変見事なので印象に残っています。

ちくま文庫の全集では、800ページ以上のボリュームの11巻に、『不連続』と推理小説すべて、12,13巻に時代小説の『安吾捕物帳』が収められています。
(11巻には、もう一つの長編、未完に終わった『復員殺人事件』が高木彬光による完結編『樹のごときもの歩く』を付した状態で掲載されています)

ただ、わたしとしては、『不連続』があまりにすばらしく、それ以外の作品に関しては、あまり興味がもてない、というのが正直なところでしょうか。

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