シャーロック・ホームズのデビュー作「緋色の研究」は、医師のジョン・ワトソン博士がロンドンで住むべき場所を探すところから始まります。
友人から紹介された、奇人ではあるが悪人ではないシャーロック・ホームズ氏と同居を始めるのですが、当初から驚かされることばかり。
まず、その教養の偏り具合。
文学、哲学、天文学、政治学についてはゼロないし極めて薄弱。
植物学については毒物一般には至って詳しいが、園芸に関しては無知。
地質学では、土壌を一見しただけでどこの土か判別できる。
化学に関しては深淵。解剖学は正確だが体系的ではない。
さらに今世紀に起きたすべての凶悪犯罪に精通している、と記述しています。
警察からの協力要請があり、さっそく出かけていって、いわゆる「深夜の謎」に遭遇します。
古家での奇妙な死体。血は流れているが、外傷の無い死体。
壁に書かれた血の文字、Rache 。
警官がやってきたときに、屋外にいた酔っぱらい。
さまざまな謎が提示されますが、ホームズは、そのときは観察しておき、後で真相をワトソンに明らかにします。
少年探偵たちまで使って、発見した容疑者を部屋に呼び寄せます。
フィナーレは、呼ばれて油断した犯人を、刑事たちとともに取り押さえる鮮やかな結末。
フランスのガボリオの書いた「ルコック探偵」にくらべて話の進むペースが速いので、ホームズはとても有能に思われます。
(もちろん、そのように作者ドイルが作り上げているわけです)
発表当時、ほとんど話題にならなかったそうです。
その頃、このようなタイプの物語がどの程度、一般的だったのかわかりませんが、残念だったと思います。このあたりの歴史はもう少し知りたいところです。