緋色の研究(ドイル)A Study in Scarlet

かの名探偵、シャーロック・ホームズが最初に登場する長編が「緋色の研究」です。

医学に志していたコナン・ドイルですが、せっかく開いた診療所は閑古鳥が鳴いています。
当時、暇をもてあましていた彼は、短編小説を書いては出版社に送りますが、採用されません。
そこで、恩師ベル博士をモデルに創造したシャーロック・ホームズの物語を1886年に書きあげます。
これもすぐに採用されたわけではなくて、1年間寝かされた揚句、戯曲と抱き合わせでようやく雑誌のような体裁で出版されることになりました。
しかも、当時25ポンド(今のお金で60万円ていど)で著作権、出版権を譲り渡してしまいます。

わたしがはじめてこの作品に接したのは、いまでは伝説になっている山中峯太郎という人の手になる「深夜の謎」というタイトルの本でした。
戦前の冒険小説作家、山中峯太郎が、かなり縦横無尽に脚色して作り上げた「山中講談・ホームズ奇談」とでもいうべきお話しでした。
当時ポプラ社から出ていましたが、その後、ドイルの遺族からクレームがついて、今ではほとんど手に入りません。
この前、古本屋で見かけたら、当時の定価からすると信じられない価格がついていました。

原典「緋色の研究」では、話の前半がホームズ譚となっており、後半がその原因となった事件を描いた西部劇的な展開です。
山中版では、この構成が逆になっていて、ホームズが出てくるまでにずいぶんかかります。
後半に入ると、事件が起こり、一気に解決していきますから、そういう意味ではおもしろいのですが、前半がどうつながってくるのか、なかなか見えてこない欠点がありました。

最初にこの本に接したため、山中ホームズに接する機会があまりなかったのは、今思うと本当に残念です。

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