「ドリトル先生物語」

以前、イギリスに出かけたときに「ドリトル先生」シリーズの愛蔵版を10冊買ってきました。残念ながら、その本屋さんに残り2冊がおいてなくて、注文する時間的余裕もなかったので、そのまま、10冊だけのドリトル先生がうちの書庫には眠っています。

さて、このドリトル先生、岩波書店から「井伏鱒二」訳で出版されていて、そちらの判には、作者、ヒュー・ロフティングの書いた挿絵も載っています。私は、子供のころ、毎月この「ドリトル先生全集」を買ってもらい、繰り返し愛読していました。

最近、このドリトル先生の翻訳の仕掛け人が「クマのプーさん」の訳者でもある石井桃子さんであることを知りました。

石井さんが児童文学書の出版社を立ち上げたころ、井伏さんの「言語感覚」にほれ込んで、訳していただくよう、依頼されたらしいのです。

井伏さんは、なかなか翻訳に着手せず、待ちかねた石井さんは下訳を作って届けられたそうです。

井伏さんは、石井さんと訳語を検討して、「ドゥーリットル先生」を子供にも言いやすい、「ドリトル」に改めたり、Pushme-pushyouという架空の生き物の名前を「オシツオサレツ」と名付けたりして、訳文を作り上げる下地を築いていかれたようで、その後、旅行に出られて、訳を完成されたそうです。

石井桃子さんは、先ごろ101歳で亡くなられた、日本の児童文学の世界では大きな足跡を残された方ですが、こうした裏話を知るにつけ、人が様々な形でかかわって大きな作品が紹介されていくのだ、ということがわかります。

最近、ドリトル先生の新しい判が発行されて、イラストも日本の女性の方によって描かれているそうです。

それぞれの訳には、世界があり、わたしのドリトル先生は、井伏さんの訳語の世界なのですが、こうした暖かい文学が、多くの方にますます受け入れられることを祈っています。

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