小学生の時、書店で見かけて購入した「深夜の謎」が、実は、シャーロック・ホームズの第一作である、「緋色の研究」であったことは、以前、このブログで触れておきました。
たまたま、山中峯太郎版では、1部と2部とが、順番を入れ替えて出版されていたため、ストーリィの前半が、叔父と少女の砂漠での宗教団体との遭遇になっており、後半が、ワトスンとホームズの初対面、ということになりました。
大変残念なことに、この順番だったため、私は、ホームズ談の醍醐味に触れることができず、その後、別の出版社による、ホームズ物語を数冊、読むことになりました。
わたしが、出会いを大変残念に思っているのは、ホームズ物語中、私のいちばん好きなところが、この「緋色の研究」のワトスンと、ホームズとの出会いのシーン、例の、「アフガニスタンに行ってらっしゃいましたね」という一言だから、です。
主人公が二人いるような場合、どのようにこの二人を出会わせるか、というのは、作者にとっては、腕の見せ所であります。
以下に、それぞれの特徴を印象付けるか。
しかも、互いとの出会いを、必然的なものに見せるか。
後になって、読み返したとき、山中版が、後半に置いた第1部が、最初の出会いだったら、最高だったのになあ、と思ったものです。
山中版では、峯太郎による前書きの後、登場人物紹介があり、挿絵とともに、簡単な紹介が、山中調の書き方でなされています。
この「山中調」というのが、おもしろいところで、ちょっと独特の書き方なんです。
山中峯太郎によるシャーロック・ホームズ物語の復刻版は、手元にあるのですが、「緋色の研究」(=「深夜の謎」)の収録された1巻だけ、見つからず、別の作品の「山中調」登場人物紹介を引用してみることにします。
「世界的名探偵ホームズ
素晴らしい特別の探偵才能によって、怪事件の謎を、見事に解いてしまう。ところが、余りに神経を使いすぎて、田舎の村へ親友ワトソンと一緒に行く。すると、そこにまた[悪魔の足]の奇々怪々な謎の事件に会い、それが解けずにひどく苦しむ。
医学博士ワトソン
ホームズとともに探偵冒険をあえてし、今度も、「悪魔の足」その他の怪事件に、驚きながら、その記録を、詳しく書く。自分もホームズと同じ探偵の腕を持って、いるはずだ、と気張ってはいるが、かなわない。それでも、なお、負けない気で突進する。
村の牧師ラウンドヘー
田舎の村に教会を持って、平和に生活している。突然、思いがけない怪事件が二つも起きて、ホームズ先生とワトソン博士に探偵を頼み、謎は皆悪魔の仕業だと、胸に十字を書く。
アフリカ大探検家スタンデール博士
アフリカ蛮地の奥を前から探検して、有名になっている。故郷の親類の家に返事が突発し、その村へ帰ると、自分も返事の中に巻き込まれる。ホームズの意見を聞いて、最後に謎が解ける。」
といった調子。よく読んでいくと、かなり内容の予告になっていたりします。
最後の博士の紹介で、「アフリカ蛮地」というのは、もちろん当時の書き方を再現したもので、他意はありません。
でも、うまいなあ、と思うのは、何となく、これから起こる事件を感じさせて、わくわくさせる手腕です。
ここまで読むと、続きが読みたくなりますよね。
この調子で、60篇の全てに、人物紹介が出てくるのですから、なかなか傑作です。
「深夜の謎」の紹介もまた、1巻が出てきたら、させていただこうと思っています。