初期のころから、声を出すことは苦痛ではありませんでした。
中学のころ、英語の基本を身につけようと、ラジオの「基礎英語」という番組を聞き始めました。
4月から始まり、1年間続くプログラムですが、始まって1か月以上にわたって、単語の読みばかりでした。
つまらない、という人たちもかなりいたようですが、読みをやっている間、一生懸命、声を出していました。
実は、基礎英語のあとに「英語会話」という番組がありました。
ある日、たまたま、基礎英語の後、ラジオをかけっぱなしにしておき、この番組が聞こえてきました。
基礎英語の先生も、発音は良かったと思いますが、この英語会話の先生の「声」には、打ちのめされました。
日本人の先生なのですが、重みがあって、とてもすばらしい声を聞かせてくださるのでした。
そのうえ、英語に関しても、明らかにわかるくらい、上手いのです。
自然なのでした。
この先生が、松本亨(まつもととおる)先生で、25年間にわたり、NHKで、英語会話を担当され、300冊以上の英語会話の本を書かれたかたなのでした。
とにかく、この番組を1度、耳にしたことで、この「声」にほれ込んだため、翌日にはテキストを手に入れて、本格的に聞き始めました。
ちょうどこのころは、松本先生のラジオ英会話歴の最後の3年に当たるころで、先生のアメリカでの失敗談や、「ナンシーとジョージ」という恋愛物語などが放送されました。
始めのうちは、声の素晴らしさに聞きほれていたのですが、やがて、英語に対する関心も高まっていきました。
それでも、学校の成績は悪く、高校になるまで、松本先生のありがたみには気付くことはなかったのです。