三浦しをんさんの小説です。
国語辞典を編纂する出版社のスタッフの物語です。
物事を作り上げていくということは、とてもエキサイティングな体験だと思います。
ここでは、言葉に対するこだわり(良い意味での「こだわり」というのは正用法ではないようですが)をもった「まじめ君」が、周りの人たちも変化させつつ、自分の夢でもある辞書づくりにまい進していくお話なんです。
『舟』というのは、言葉の海にでていくはかないこころみをさすようです。
三浦さんのおはなしづくりはとても巧みで、淡々と語られていく中で、それぞれの登場人物は生き生きと描かれていきます。
まじめ君の先輩社員で、全く逆といってもよい西岡のキャラクターは素敵です。
はじめ、どんなものにも打ち込めない西岡。
でも、すこしずつ、まじめ君の影響を受けて、変化していきます。
ところが、そうしたある日、まさかの転勤。
そのあと、西岡は、物語に登場することはほとんどないのですが、実は、最後に、またいい現れ方をします。
そうした一人一人の登場人物に向けられた作者の愛情も心地よいのがこの作品です。
手に取って、その日のうちに読み終えてしまい、しかもそのシーンがあちらこちらに思い出される、なつかしい本になりました。