前回に続き、シャーロック・ホームズのファンだ、というお話です。
そのお話の前に、前回、途中になってしまった、山中峯太郎さんの翻案「名探偵シャーロック・ホームズ」シリーズについて、書いておきます。
山中さんの『ホームズ』は、原作に忠実なホームズとはちがって、元気はつらつ、暗いところなどはほとんどない、スーパーヒーローのようなホームズでした。
当時、持っていたのは、1作目にあたる「緋色の研究」(あるいは『緋色の習作』)の翻案の「深夜の謎」でした。(その後、「スパイ王者」も手に入れます)
このとき、ちょっと驚いたのは、始めから読み始めて、西部劇風のお話が始まり、なかなか、なかなか、肝心のシャーロック・ホームズが出てこないこと。
実は、原作「緋色の研究」では、その後、親友であり、また良き助手にもなるワトソン博士と、ホームズが出会い、劇的な殺人事件を解決する1部。
そして、後半は、その事件の、原因となった、犯人の動機の内容を事細かに書いてある2部という構成になっています。
なぜか、山中さんは、この2部を前半に、1部を後半に配置したのですね。
原作者コナン・ドイルが書いたとおりに読むと、ホームズというひとのキャラクターが際立って、ワトソンとの友情も、よくわかります。
ところが、山中さん方式だと、事前に、どういう事件がきっかけになったのか、ということがすべて書かれてしまいます。
それはそれなりにおもしろく、スリルもサスペンスもあるのですが、なにしろ、「名探偵ホームズ」の本ですから、ホームズに早く出てきてほしい。
そこのところが、残念なところなのです。
わたしも、このシリーズを買うのをやめて、別の少年少女読み物のシリーズの本を読むようになりました。
それだと、すぐにホームズが出てきて、驚くべき事件、そして、奇妙な調査、最後にびっくりさせる真相、というスタイルで、とても読みやすいのです。
いずれにせよ、山中さんのホームズは、あまりに山中カラーが強かったとも言えます。
というのも、もともと山中峯太郎という人は、戦前には、少年向きの冒険物語を書かれていた方で、少年雑誌などでは、とても人気のあった人です。
そこで、やはり正義の人であるホームズが気に入って、自分なりのアレンジで全訳したのですね。
山中版ホームズを出していたのは、ポプラ社という会社で、ここからは、やはり戦前、日本の冒険者を書いて、少年たちをわくわくさせた南洋一郎というひとも、フランスのアルセーヌ・ルパン・シリーズをだしています。
こちらも、ある意味では翻案で、ルパンの性格が、かなりすっきりした正義のヒーローになっています。
ただ、ルパンにくらべて、ホームズの方に、熱狂的ファンがいた、というか、有名なホームズ・マニアの方が、苦情を言われたらしく、ポプラ社は、山中版ホームズの出版をやめてしまいました。
それでも、ホームズは、人気シリーズだったようで、大人物の翻訳をしていた方による、新しいホームズ全集がその後出版されています。
残念ながら、そのシリーズは、山中版に比べて、そこまでの人気が出なかったものか、また別のシリーズに置き換わったりしました。
現在、ポプラ社では、判型を変えて、文庫本スタイルの少年版ルパン全集と少年探偵シリーズ(江戸川乱歩)を出していますが、ホームズ全集は出ていません。
ただ、最近、といっても2017年ですが、平山雄一さんという方が、山中版の「名探偵ホームズ全集」をまとめて、作品社から3巻本の完全版全集を出してくださいました。
山中ホームズは、全てのエピソード、60篇を全て翻案しており、それが、当時、20冊の本になっていましたが、現在では、さきほどの3巻本にまとめられています。
しかも、原版に基づいて、事件の時系列並びになっており、さらにうれしい事には、それぞれの本についていた、冒頭の登場人物紹介も再録されています。
あとはわくわくするような挿絵も載っていたのですが、これは、出版された年度や、時期により書かれた画家が違っているようで、残念ながら、挿絵の再録はありません。
それでも、これは私のような、山中ホームズで、この名探偵と知り合った人間にとっては快挙で、650ページ程度の単行本3巻ですが、あっという間に読み終えてしまいました。
原作と突き合わせてみると、いくつも面白い改変が見られたりしますが、このあたりも、編者の平山さんは丁寧な注釈で指摘されており、大変な労作だとわかります。
というわけで、あまり英語そのものとは関係ないかもしれませんが、ホームズのお話をさせていただきました。