あるマンガ家志望者がいました。
無事デビューし、作品が売れ出します。
ところが、読者の反応を読むと、自分のテーマがまったく通じていないのです。
「なんでわかってくれないんだ!」
あせった彼は、自分の世界を少し変えて、わかりやすくします。
気がつくと、彼は一つの世界を支配する権力者になっていますが、その世界は決して自分自身のものではなく、あくまで読者のためのものになってしまっているのです。
これは、石ノ森章太郎さんの「マンガ家入門」のあとがきで描かれたエピソードです。
マンガは創作であるのに対して、英語の世界はいわば技術であるわけですが、その二つは、案外つながりの多いものなのかもしれない、とこの部分を読んで思いました。
あなたの言おうとしていること、それはストーリーかもしれないし、主張かもしれません。
それを他の方にわかってもらえるような形にするためには、生のアイディアのままではなくて、順番を並べ直し、エピソード(例)を付け加える必要があります。
それをうまく英文で表現しなくてはいけません。
お預かりした英文を、ネイティブと一緒にチェックすることがよくあります。
この作業で、ひっかかってくるのが、上に述べた問題です。
まず表現。
たとえば、代名詞が何を指しているのか。
具体的な名詞が出ていないのに、they や it で表してみても、なんのことかわかりません。
さらに、メッセージを並べる順番。
結論なり主張なりがまずでてきて、それから説明する方が、英語では自然です。
そして、例。
言いたいことにぴったりの具体例があるかどうか。
英語で言いたいことを伝える(英語を役にたたせる)ためには、こうした変更が絶対に必要です。
それが、勉強を継続する場合の大きな困難にもなっています。
英語を学ぶ、ということは、日本語という自由に使える表現ではない形で、自分のメッセージを伝達する技術を学ぶことだからです。